すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《26》</span>

焼酎ネーミングシリーズ《26》明るい農村、農家の嫁

□明るい農村
□農家の嫁
(鹿児島県、霧島町蒸留所、芋)

◆半世紀前の散居農家ほうふつ
◆いろり、縁側、スイカぷかぷか
◆TPP後、健全な農業環境とは


● 「明るい農

村」なんて、およそ焼酎の名前ではありませんな。自治体にょっては農村環境改善センターという名称の建物が残っている所まだまだ多く、かつての農林省が推進した「農村環境改善運動」の標語か?と思いました。
で、首が勝手に数十度傾きましたな。どうも、これは
時代の雰囲気がかなり、ずれているぞー。

 ● 柱も梁もぶっとくて、いろりがあって、祖父が薪をくべていて、自在鉤のずっと先天井を見上げても、幾世代分の煤のせいかぼんやり薄暗く、屋敷林で日が遮られがちな奥の座敷はなにやら気配があって、今思うと民俗で言う座敷童子というやつだったか。縁側があって、土蔵があって、農機具置き場あたりではヤギが戯れ、鶏小屋には産みたての卵が転がっていて、裏手を流れる川の掘割にはスイカ、トマト、甘ウリがぷかぷか浮いていて、手を浸すと真夏でもひんやり冷たい…。

● 「明るい農村」というこのラベルのおかげで、母親の里、富山県砺波地方の散居集落の風景が、ふんわりとよみがえってきたのです。

● 1960(昭和35)年代、どこの農家もまだ「明るい農村」でした。農業の先行きにさしたる不安も陰りもなく、明るさに包まれていた。どこの農家にもあった「家の光」という農家向け総合雑誌は、ひょっとして明るい農村を象徴していたのかもしれません。
東京オリンピック(昭和39年)が数年後に控え、いよいよ本格的に高度経済成長期に入っていく時代の高揚感が、都会から農村にも波及してきた…。ラベルが醸し出しているのは、半世紀余り前、遠い昔の「農」の雰囲気なんでしょうな。

● TPP(環太平洋連携協定)交渉が合意に達しても、なお大きい農家の不安感。合

意項目がいざ実施されれば、焦点中の焦点だった我が国の農業はどのように変わっていくのでしょうか、農村環境はどう変革を迫られるのでしょうか。農家は昔のように再び「明るい農村」になれるでしょうか。
減反やら品目横断やら農政は迷走してきただけに、TPP移行後の農業、農村、何より農家の人たちの按配が、誰しも気にもなるところです。

姉さんかぶりとやかん

● じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの三人でこなす三ちゃん農業。大黒柱のとうちゃんは会社勤めに出て、二つの稼ぎを足して合わせての「兼業農家」が、地方に、田舎に豊かさをもたらす。高度経済成長期の農家の姿でした。
ラベルをよくよく見ると、姉(あね)さんかぶりの若嫁さんが大きなやかんを手に提げていますな。銘々皿ならぬ銘々魔法瓶の普及いまだしのころ、大きなやかんは、「三ちゃん農業」の農作業一服の時の必需品でした。野良での一服を重ねるうち、やがてじいちゃん、ばあちゃんに代わって若嫁が農家を切り盛りしていく…。まだ、農業への抵抗感が薄かったころ、やかんは農家切り盛り役バトンタッチの象徴だったように思われますな。

● さて、「明るい農村」のボトルを180度ひっくり返して、裏ラベルを読んでみると、こう記されている。
「よき焼酎は、良き土から生まれる。良き土は、明るい農村にあり」。
なるほど、これがネーミングの由縁か。素朴で単純明快な宣言。蔵元の揺るぎない信念の一文は、もはや哲学ですな。一枚のラベルが半世紀前をフラッシュバックさせてくれるのも道理であり、これぞ、「ネーミングの威力」。

● それにつけても、女性が農業を魅力ある職業と捉え、進んで「農家の嫁」いや表現を変えるなら「農するひと」を選択するような時代が来てほしいと念願しますな。TPPで農村環境が変わったとしても、明るい方へと活路が開けてゆくー。何しろ、農業は、国を支える永遠の基幹産業ですから。


きょうは、これにて。
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