すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《29》竃猫‥</span>

焼酎ネーミングシリーズ《29》竃猫‥‥

竃猫(へっついねこ)
(宮崎県、落合酒造 芋)
竈(かまど)
(鹿児島県、さつま無双酒造 芋)

▽同一の字に、訓読み2通り
▽関西「へっつい」 関東「かまど」
▽「火っ継い」が転訛か



● とんと目にしない難しい漢字。ラベルのルビにあるように「へっつい」と読むんですな。時代の進展とともに忘れ去られようとしている言葉、「へっつい」を商品名にするとは何と奇特な。それとも顧客の脳へ、一発刷り込みが狙いかな?

 
「竈」‥実は「かまど」とも読む、読めるんですな。最近は
家電量販店の炊飯器コーナーで、おいしさ追求をうたう元祖、本家「竃(かまど)炊き」などのキャッチコピーで見かけることも。もう一枚の焼酎ラベルの写真をご覧じろ。旧字の体裁ではあるが、明々白々、かまどはへっついと同一の字であります。今や、竃はおいしいご飯を象徴する得がたい字なのです。

北陸は、へっつい派
● ネットサーフィンしたところ、大雑把には、関西方面では「へっつい」、関東では「かまど」。どうしたことか京都では「おくど」(奥処)と言うそうな。

((北陸は透き通ったうどんつゆが示唆するとおり、関西風にへっつい派。ただ、北陸新幹線の開通で、関西よりも関東が段々近しくなってきていますな。早く関西まで延伸させないと、うどんつゆが濃くなっていく‥‥??))

「火っ継い」と解釈したい
● 古都のおくど=奥処の伝でいくと、かまどは「釜処」とも書けることになる。では、へっついは?
 独断が許されるなら「火っ継ぃ」と漢字を当てたいですな。火種を朝、昼、晩、そして翌日と継いでいくという意味で。
 かまどの火を落としたあと、まだ赤々とした炭を火消し壷に入れ保存するのはまぎれもなく「火継ぎ」行為。これが転訛して、関西方面では台所の装置を、「へっつい」と呼ぶようになったと考えたいですな。象形文字の意味が分からなくても、釜処、火継ぎなら、ご飯炊く処と想像できなくもないーー。独り合点。

●  それにしても、不思議なのは、同一の漢字に、語感が全く違う訓読みが二つそろったこと。関東と関西は相容れないとはいえ、特異な事態には違いない。
 これでは、古都・京都が「うちはどちらでもあらしまへん。『おくど』でいきますえ、ごめんこうむりやっしゃ」ーーと軽く啖呵を切ってもむべなるかな。また、啖呵を切らざるを得ない立場に追い込んでいるようなものですな。かまどとへっついの相克の果て。

調理の装置は、採暖の具
● 次に、猫について。こたつ(炬燵)の中の、金網をかぶせた小さな炉で炭火をおこした時代の猫は、♪猫はこたつ(炬燵)で丸くなる~だった。と言っても、せいぜいこたつの布団の上だった。豆炭あんか、電気ごたつを経て、ブラウン管テレビや電気カーペットの上と推移し、近年の猫は、発熱するパソコン周りでも丸くなっているとか。
 「竃猫」とは、こたつ以前の時期に、煮炊きが終わったあと余熱を求めて、丸くなっていた猫たちを指す成語なんですな。竃猫たちには、へっついとは採暖の装置だったんですな。今は遠い昔の猫の姿、生態が浮かんで来ます。

躍進どころか大飛翔
● 竃猫とネーミングした蔵元は、郷愁の情よほどの人、と推察します。LPGから都市ガス、IH電化コンロに取って代わられ、死語になろうとしていた言葉、漢字を、ありがたくも、良くぞ、酒販店の陳列棚に堂々、引っ張り出していただきました。大げさに言えば、消えゆく国語を守っていただいた。

 近年の「竃猫」は、台所周辺をうろうろどころか、国際線飛行機に「搭乗」しているとか。機内食にショーチューとして供され、愛飲されているらしい。
陸を躍進どころか、空を大飛翔ですな。出世魚ならぬ出世猫。


きょうは、これにて。
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