すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ≪45≫ 蟇目、夢想仙楽</span>

蟇目
(鹿児島県、さつま無双、芋)

否が応でも、逆に注目
由緒正しき、弓道神事

● だでさえ読めぬ字が、斜めにゆがめて書いてあるから、「これは何か、模様か?」「なんという字だ?」という仕儀となる。その分、逆に注目してしまう。否が応でもボトルを手に取ってもらおう、そういうネーミングですな。

 ヒキガエ

ルは「ひき蛙」と書くものと思っていたのに、「蟇(ひき)」の一字があったなんて…知りませなんだ。ならば今後は、小さなカエルには「蛙」大きなカエルには「蟇」をあてようと思う。

● さはあれど「蟇」、とても嗜好品の名に当てる漢字とは思えません。ガマガエルやヒキガエルの風貌、闇夜の鳴き声を想像しただけで脳の摂食中枢が拒否反応を示しそう……。酒の売り上げに寄与する字とはとても思えませんな、ヒキはヒキでも「どん引き」のひき?

 蟇の字面も芳しくない。同じ部首の「墓」の字がついてくる。「ゲゲゲの鬼太郎」の当初のタイトルは「墓
場の鬼太郎だったそうだし。であれば、墓場に棲息する大きな虫の代表が、蟇ということか知らん?

● ただ、唯一の救いは焼酎の名が「蟇目」(ひきめ)であること。蟇目となると、これは俄然、白昼、正々堂々と見得を切って登場してきていい。なにしろ、古武道の一つ、弓道界に由緒正しき、蟇目の神事がある。

 矢の先端に小さな蕪ようのものをつけた鏑矢(かぶらや)。正面から見ると空気を通す小さな穴が二つ通っていて、これが蟇の目ん玉のように見えるから「蟇目」。
 なぜ穴が貫通してい
るのか。いろいろ調べてみるに、放たれた矢の直進性確保のためはもちろん、それ以上に大事なのが、穴の気道通過により空気の振動音を発生せさせるのだとか。ビーン?orブーン?。
 敵方小舟の上の扇めがけて、那須与一の射た鏑矢も、源平両軍に聞こえよとばかり音響かせて飛んだに違いない。つまり、蟇目は鏑矢のおかげで、由緒正しきハレの言葉となったと言っていい。鏑矢の形が今に残る由縁でもある。

 蟇……味方に付ければ実に心強い生き物らしい。蟇に乗った石川五右衛門が火遁の術で証明している、講談の世界ではあるが。では、この段、ここらで幕引き。



◇夢想仙楽
(福岡県、光酒造、麦)



ああ、これすべて一酔夢譚
唐に渡った梅花の王の想い

● 何からなにまで、“唐チック”。四字熟語になっている焼酎の名から、ボトルを包む古
色の絵柄、その人物の衣裳、そして五言絶句の漢詩まで、強く「唐風」が意識されてますな。ちらちら眺めれば、ほんと唐詩選の一つかと思ってしまいます。

渡唐梅花王

文化越波涛
夢想仙楽酒
西都太宰府

● この4行だけでは、脳裏に情景描けず、あまりに情報不足なので、ボトルの裏あ
たりの記述も参考にしてみたものの、それでもまだまだ…。で、時制を度外視して、かなりの勝手な拡大解釈、想像的解釈をしてみた。

かつてはるばる唐に渡った梅花の王ありました
文化というもの、無尽の波頭を越えて伝播する
人の世に夢に想い焦れた酒あり、酒を得て仙境を楽しみ、楽しんだ
ああ、唐でも京でもなかった、ここは西都太宰府だったーー。

● 蔵元は九州・福岡にあり、今も昔も西都・太宰府と口をついて出る。
太宰府とくれば菅原道真、道真と来れば「東風吹かば匂い起こせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ」。政争に敗れ左遷されたとはいえ、京の都へ恨みも未練も募る。そんな地の梅花の思いは遥か、大陸の唐へも飛び、彼の地の仙境に遊び、「仙薬」を得てつかのま仙術を楽しむ。
夢うつつ、これすべて一酔夢譚というべきかー。

さて、夢想仙楽、丹精した麦焼酎を、はるばる輸入したスペイン産シェリー酒の樽に五年貯蔵したとか。
東風吹かば 匂い起こせよ 梅の花〜〜
西風吹かば 香り来たれよ シェリーの香〜〜
かくて、洋の東西をワープの心地ぞする?

きょうはこれにて。
 ポパイに、ほうれん草
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