すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">クルマの話を《1》  ロータリーの コスモ</span>

得も言われぬ軌跡、エピトロコイド曲線
ロータリーエンジンの威力体感
詰め襟学生服でコスモ試乗会
半世紀前、世界画期の回転運動エンジン



今回はクルマの話を。
◆最近のこと。書店で、マツダのコスモ・スポーツを表紙にした本を見つけ、思わず手に取りました。誌名は『ノスタルジック ヒーロー』。表紙になっていたのは、半世紀前、世界で初めて量産され市販されたロータリーエンジン車で
す。復唱、コスモ・スポーツ。(写真)

 ◆発売は東京オリンピック3年後の1967年(昭和42年)5月。高校生だった私は律儀にも学生服姿のまま外装3段変速(当時!)のサイクリング自転車を駆って、数キロ先のマツダ販売店に出かけたんですな。やがて世界の主流になるかも知
れないロータリエンジンの車を、何が何でも見たいと。

◆会場で、横から見ると円盤(UFO)みたいな、低く扁平な車体をためつすがめつし、分厚いカタログ、資料をもらい、免許証など持たない学生服が助手席に座り試乗した。コクピットに収まり、走り心地も体験させてもらったのである。

 ローギア発進から高速域まで、さらには何とトップギアで発進してこれまた高速域まで、エンジンは滑らかにストレス無くすっと一気に吹け上がる。要するに、トランスミッションのシフトチェンジをしなくても、各段のギアでそれぞれオートマチックなんですな。往復運動のレシプロエンジンとは違う、まさに回転運動のロータリーエンジンの秘めたる力如実でありました。

◆もう一つ、いまだに脳裡からすんなり出てくるのが「エピトロコイド曲線」という名称。三角おむすび形のローターの先端が、扁平なシリンダー(気筒、燃焼室)の中で描く波形の軌跡。グラフ化すると、これが、えもいわれぬ規則的な、表現が妥当かどうか、艶っぽい魅惑的な波
線になる。私にとって「ロータリーエンジン=エピトロコイド曲線」なんですな。
もらったカタログや資料が重たいくらいだったのも、エピトロコイド曲線の数学・幾何的解説冊子まで袋に入っていたから。高校生の助手席試乗応需といい、振り返ってみると、本社広島の、マツダの新エンジンに掛ける情熱がいっぱい詰まっていましたな。

◆しかし、ロータリーエンジン搭載車はサバンナ、ルーチェ、ファミリア…と相次いで投入されたものの、現在、結果的にエンジン界の本流にはなっていません、残念なことに。なぜか。ひとことで言うと三角ローターの先端(アペックスシール
)の摩耗が激しく、燃焼室の密封性に、シール性に難点があったから。つまり燃費効率が今ひとつよろしくなかった。かくして、燃費の一点でエンジン界の本流にはなり得なかった、ということなんですな。環境保護、環境配慮の観点から燃費効率を徹底追求したハイブリッド(HV)やら、プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、そして究極の燃料電池車(FCV)指向からすると、もっともな帰結かも知れませんが。

◆西ドイツ(当時)のNSUバンケル社から権利を得て開発に成功し、マツダが世界で唯
一、量産したロータリーエンジン。日本の自動車史の一端を体験したからこそ、クラシックカーフェスティバルで見かけるのもいいけれど、コスモの遺伝子を引くRX8を町中の交差点で見かけると余計に胸がわくわくするのでしょう。胸ときめく車があるっていうのは、やはりいいもんです。初恋の人に遭遇するみたいなものでしょうか。わが国のモータリゼーションの歩みと重なった世代だったからこその幸運と言えそうです。クルマは単なる移動手段ではないと、じんわり、やんわり、あらあめて思いますな。

◆ちなみに、『ノスタル
ジック ヒーロー』のほか、書店店頭で見つけたクラシックカー雑誌は『オールド・タイマー』、臨時増刊で『旧車FAN』『昭和40年代 絶版国産車』。旧車~の表紙は映画007にボンドカーとして登場したトヨタ2000GTでした。コスモと、たまさかの東西両横綱の表紙そろい踏みでした。
きょうは、これにて。