すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">追加 どうにも熱い、焼酎ネーミングシリーズ21</span>

追加・どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ《21》

◆空山独酌◆ (大分・三和酒類、麦)


◇蒼天と稜線を肴に、ぐびっ 
◇ガリバー気分で気宇壮大に
李白「月下独酌」と好みは  
( ・写真は、北アルプス立山連峰剱岳(標高2999メートル。過去に撮影の中から))


   ひとり焼き肉、ひとりカラオケなどと、未婚・非婚、単身世帯が増えて「おひとり様市場」が急拡大しているが、どうにも肩身が狭く見えてぱっとしませんな。たまには、肩幅広げて、スケールのでかいおひとり様を満喫してはどうだ?

 酒のラベルをいろいろ見てきたが、人を気宇壮大にしてくれること、これに勝るネーミングはおそらく無い。空山独酌。[くうざんどくしゃく]。空と山を肴に独り、手酌で飲むー。

北アルプス剱岳なら
 何か、ガリバーになったような気分になりますな。
 連峰、連山の冠雪の稜線を、彼方から此方へ、大徳利を肩に引っ掛けて、ドッコイショとひと跨ぎ、軸足を替えてまたひと跨ぎ

、またひと跨ぎ…。いくつか尾根を越えて谷筋の原で、どっかと腰をおろして胡座(あぐら)をかく。

 北アルプスなら剱岳の大窓、小窓、三の窓、そうして、長次郎谷か剱沢雪渓あたりが独酌の宴の場となるか。果てなき蒼天と稜線を間近に、大徳利をぐびっ、ぐびっ、びぐり。飲み干して人間世界を俯瞰し、時に瞑目して、想念は空を突き抜けて天界を翔け巡る……。
いや、いや、いかな大徳利の酒であってもそこまでは行くまい。刮目してみれば所詮、釈

迦の掌の上だったりして…。されど、イメージは大きく描くに越したことはない。

●「小せぇ、小せぇ」⇒⇒月面宇宙返り
  中国・唐代の詩仙にして酒仙、李白の詩に独酌をテーマにした詩がある。『月下独酌』。ちょっと寂しい詩ではある。(ついでにいえば、そのものズバリで島根県松江市李白酒造に日本酒「月下独酌」があるが、ここは焼酎専用カウンターにつき列挙のみ)

花間一壷酒/独酌無相親/
挙杯迎明月/対影成三人/
月既不解飲/影徒随我身/
暫伴月将影/行楽須及春/
我歌月徘徊/我舞影零乱/
醒時同交歓/酔後各分散/
永結無情遊/相期遙雲漢/

   勝手に意訳すると、

花咲いて酒あれども、語り合う友なく独酌する、
杯を挙げて月を迎え、月影と《三人》で宴する、
月は端から酒飲めず、行楽の宴は必然春となる、
我歌えども月は揺れ、我舞えども影も舞うだけ、
醒めてはまた交歓し、酔った後は各自別れるぞ、
情け伴わぬ遊びだが、末は天の川でと約束する。

  さらに、得手勝手なぶっちゃけ現代訳をー

せっかく花も酒もあるのに、訪ねてくれる遠来の友も、SNS友もない(あたりまえだ)。えーい、今夜は独酌の宴だ、面子は俺と月と俺の影の3人だ。
照らすのみで堅物の月は酒を飲まず、影のやつは俺のまねをするだけ。
俺が歌っても月は唯ゆらゆら揺れ(俺が酔っているからそう見えるのか?)、俺が舞っても影のやつは寸分違えず芸人のように形態模写するだけ。
まったく語らいと情感のない宴だから、あまり面白くないんだな。
酔いの回らぬうちはほどほど三人で遊び、酔った後はそのまま解散したぞ(俺が勝手に眠ってしまったからなぁ、許せよ!)。
そのような宴でもいい、これからも一緒に遊ぼう、末は天の川でと堅く約束したぞ。

 意訳すればするほど、冴え冴えとした月の下、孤独感、寂寥感が漂ってきて、李白の独酌の世界は案外「小せぇ、小せぇ」と思えてきますな。が、詩の末尾に到って、李白の酔夢は、月の下から一気に月面経由で銀河、天の川へと跳ね上っていくんですな。「月面宇宙返り」みたいなもんです。

 前段で詩仙ぶりを哀調のうちに示し、そして末尾で酒仙の面目躍如となるー、そんな李白の、さすがの独酌世界ではありましたな。
 首尾一貫、壮大な気分にさせてくれる空山独酌と、月の下から天の川へと飛ぶ月下独酌。さて、あなたは、どちらの独酌が好みかな。
 

 『どうにも熱い、焼酎ネーミング』は、シリーズ20で終わっておりましたが、その後、新たに興味引かれるネーミングがいくつか出てきましたので、追加の形で、何回か取り上げていきたく思います。ご笑覧いただければ幸いです。

 既掲載は、
(シリーズ20◆発◆独奏会りさいたる)
(シリーズ19◆那由多の刻◆欧羅火)
(シリーズ18◆えじゃのん おんぼらぁと◆次郎冠者)
(シリーズ17◆はげあたま◆河童の誘い水)
(シリーズ16◆おやっとさあ◆いつもの奴)
(シリーズ15◆ハナタレ◆不二才(ぶにせ))
(シリーズ14◆青木昆陽、利右衛門◆佐藤)
  (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆おやじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)
(シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
  (シリーズ6◆虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5◆いも神◆元祖やきいも)
(シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)

きょうは、これにて。次回、焼酎シリーズ《22》で。