すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ18</span>

 2015年3月14日の北陸新幹線金沢開通を視野に、日本酒どころ北陸は石川県の老舗蔵元から、米焼酎が相次いで登場しています。今回はネーミングも対照的な「えじゃのん おんぼらぁと」と「次郎冠者」について。


 既掲載は
(シリーズ17◆はげあたま◆河童の誘い水)
(シリーズ16◆おやっとさあ◆いつもの奴)
(シリーズ15◆ハナタレ◆不二才(ぶにせ))
(シリー
ズ14◆青木昆陽、利右衛門◆佐藤)
 (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆おやじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)

(シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
 (シリーズ6◆
虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5
◆いも神◆元祖やきいも)

(シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆
百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)


英語と金沢弁がコラボした
エキゾチックな方言の記銘力
●えじゃのん おんぼらぁと●
(石川・福光屋、米)


ツェーゲン金沢」って知ってます?。「カターレ富山」って分かります? 片やJ3、片やJ2のチーム。漢字交じりで書くと「強(つ)ぇーげん」、「勝たーれ」。そう、ドイツ語でもスペイン語でもありません。歴とした金沢弁と富山弁、北陸の方言なんですな。方言は外国語となじみやすい、しっくり来る。このチーム名が証明しています。

「えじゃのん おんぼらぁと」。一見、全部方言のように見え
て、実は英語と金沢弁のコラボです。いや、耳で聞いても目で見ても、しっくり来すぎて、もうはや国際的な完全融合の域に
ある。〝方言学の常識〟のかなり上空をトンデマスな。
「おんぼらぁと」の意味合いは、「いんぎらぁと」と同様、ゆっくり、ゆったりとー。私の友人なんぞ、夜の金沢・片町で「いんぎらぁと」という店名を見つけ、「居酒屋なのにスペイン語で来たか」と早とちり。100%金沢弁と知って仰天し、「ゆっくりゆったりしてって~」という居酒屋に感動さえして
ました。こういうのを、エキゾチックな方言といいます。

順序逆だが、次にえじゃのん。驚くなかれ英語です。

AGE UNKNOWN=エイジ アンノウン。年齢不詳、年月知れず。縮めて拗音化してエジャノン、さらにえじゃのん。「別にひらがな書きにしなくても、えーじゃないの」と突っ込みのひとつも入れたくなりますが、英語から日本語風、さらに方言風へ、いわば華麗な「3段変身」と言えますな。ネーミングにおける遊び心の発露、と寛容に受け止めておきましょう。
ラベルには、積年にわたる仕次熟成のため、焼酎の年齢不詳の意味、とありますが、ここは素直に「年齢問わずだれもかれも、ゆっくり、ゆったりと味わって~」と解したいですな。

商品名をアピールし覚えてもらおうと思ったら、無色透明な標準語より一癖も二癖もある方言が断然勝ります。新幹線がこの半世紀
もたらしてきた「時間距離短縮」の逆効果と言うべきかも知れません。

北陸新幹線金沢開通を控えて、国際色と郷土色融合のニューウエーブ。ここまで、思えば遠くにきたもんだ~。



 
 
酒どころ北陸の〝太郎と次郎〟
若武者に戻って活躍を期待 
●次郎冠者(かじゃ)●
(石川県・車多酒造、米)

商品棚にこのラベルを見つけたとき「あれ、太郎は?」ととっさに思いましたな。ウルトラファミリーにさえ、律儀にもウルトラマンタロウがいるのに。南極物語は極寒を生き延びた兄弟犬、タロとジロで成立してい
るのに
。太郎冠者なくて、いきなり単独の次郎冠者ですか?

 同じ長男であっても太郎と一郎はちょっと違う、という講釈を聞いたことがある。

ーー第1子が男の子だったら、一郎と名付ければいい。第2子以降の男の子には、二郎(次郎)、三郎…と続ければいい。第1子が女の子で、第2子以降にようやく待望の(?)男の子が生まれたら、太郎にしなさい。大黒柱のように太く揺るぎなく、どっしりとあってほしいと願って―。
家制度がまだ厳然としてあり、家を継ぎ家系をつないでいくのが長男の責務だった頃の名残でしょうか。それほど男系の家制度のもと長男、太郎は大事にされ期待もされた。

ことここに思い当たると、すぐに直感
できたんですな。

名だたる酒と肴の旨しところ北陸で、白山水系の蔵元にとって、太郎冠者とは当然、清酒のこと。であれば、兄貴、先輩あっての次郎冠者と位置づけられるのは自ずと焼酎になる。
二つめに、この焼酎、香り高い吟醸酒の、香り高い酒糟を原材料にした、正統派の糟取焼酎だそう。都合二つの意味合いで、秘蔵っ子の次男坊として「次郎冠者」と名付けられたと推察できるんですな。

それにしても、元服を意味する「冠者」という言葉。時代とともに大きく変容しました。源平動乱の平安末期なら、源義経を九郎冠者、源義仲を木曽冠者と呼ぶなど若武者を意味した。それが時代を下って中世の芸能・狂言の世界では従者、お付きの者を言うようになった。演目『附子(ぶす)』では、太郎冠者、次郎冠者とも、いわば滑稽と笑いの衣をまとっているんですな。本来の冠者、今いずこー。

長男の振る舞いを知り、長男に跡取りの重責を託し、自身は家を離れ、世に出て艱難辛苦をなめつつも自由闊達、ために世に出て往々大成するのが次男坊とか。
北陸の次郎冠者には、今一度、若武者の姿に戻って本領を発揮、活躍してほしいものですな。焼酎界での大化けを期待しましょう。

きょうはこれにて。次回シリーズ19で。