すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ15</span>

 久しぶり焼酎ネーミングの世界に戻ってきました。愚息だの粗品だの身内、手前を謙遜しての言い方はありますが、昨今の、親も乗り出してくる就活だの、婚活をみているとそんな悠長な時代ではありません。みずからアピールしなくて誰がしてくれるのという時代なのに、さてこのネーミングは? 
今回は「ハナタレ」「不二才(ぶにせ)」について。


既掲載は
(シリー
ズ14◆青木昆陽、利右衛門◆佐藤)
 (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆おやじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)

 (シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
 (シリーズ6◆
虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5
◆いも神◆元祖やきいも)

 (シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆
百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)

洟垂れ、初垂れと端垂れ、花垂れ
明治の檄、平成の現実
人気一  ハナタレ●
(福島・人気酒造、麦)

ハナタレとは
、蒸留装置から最初に垂れてくる一等美味な焼酎を指し、初垂れと書くそうです。日本酒なら「あらばしり」、ビールなら「一番搾り」と同類の、いわゆる業界用語ですな。あちこちの蔵元が芋、麦問わずハナタレを市場に
投入している。酒販店の棚でたまさか出合ったのが、福島県二本松市人気酒造は「人気一」シリーズのハナタレでした。

 ハナタレと聞くと〝アラ還〟世代は、どうしても「洟垂れ小僧」を連想する。そう、2本の水っぱなを垂らした子どもたち、高度成長期以前ならどこの横丁、遊び場にも大勢いましたな。

40、50洟垂れ小僧
60、70働き盛り
90過ぎて迎えが来たら
100まで待てと追い返せー。

〝名言〟の主は明治の大経済人、渋沢栄一翁だそうです。平均寿命50歳にも届かなかった明治時代、この4行句は、殖産興業を念頭にした翁一流の檄文だったに違いありません。
先の2行はおそらく人生から得た確信事項。あとの2行は、将来かくありたしという長寿願望。過去と未来は語れても、現在は生々しくて
語りにくいもの。80が抜けているところを見ると、翁80代の物言いと思われます。

この4行句、平成の昨今、一段と説得力を放っています。
男女とも平均寿命80歳を超えた超高齢社会の今日、人口構成いびつなゆえに社会保障制度の先行き怪しくなり、〝泥棒を見て縄〟よろしく65歳定年が今春、法制化されました。希望があれば65歳まで雇用するよう企業側に義務づけられたのです。でなければこの先、社会がもたず、法制化の狙いは「何なら70代まで働いて~」でしょうな、きっと。
一世紀を経て、「洟垂れ小僧」という明治の檄は、平成の現実となったのです。翁はまさに千里眼の人でしたな。

閑話休題ー。
でも、初垂れと書いてハナタレとは読めません。ハツがハナに転訛するとも思えません。ハナタレに漢字を当てるならむしろ「端垂れ」が妥当でしょう。 本当は「端」なんだろうけど、きれいで何かと験のいい「初」を採用しちゃったよと。これが、ハナタレ=初垂れ表記に至った顛末ではないでしょうか。

ネーミング、命名には先行きの吉兆、発展を願う心根が反映されます。
であれば「花垂れ」はいかがでしょう。豪勢、見事な「懸崖の菊」あるいは「枝垂れの桜」を連想させて、馥郁と香る焼酎に――。




イケメン凌駕の内的魅力、二つとない才?
大久保利通より西郷どん

●不二才 〈ぶにせ〉●
(鹿児島・佐多宗二商店、芋)

よりによっての命名ですな。
不二才と書いて「ぶにせ」。よかにせの反対、ぶさいくな男。鹿児島弁のイントネーションはとても丸いのにキツイ単語もありますな。丹精の焼酎を世に送るのに、イケメンの反対とは少々かわいそうな名前。ちょっと自虐的、ちょっと破れかぶれ、ちょっと意固地…。競合商品多数につき、もう委細かまわずなのかな。

以下は、不二才の独り言、ぼやき。
青二才はまだいいよ、青=若さだから、今後の成長によっては立派な大人になる可能性がある、伸びしろ大いにあり、って言うことでしょうが、不二才はなぁ、一刀両断だもんな。将来性言及の余地なしという

決めつけではないか。言われた方は、たまったもんじゃないぞ、あ~ぁ。わたくし傷ついてます」。

待てよ、そんなに捨てたもんでもないぞと、ここで傍目八目の声(少々長いけど)。

「ついこの間、ぶさかわ、という言葉がはやったの覚えてないか? 不細工だけどかわいい。シンボル的存在だった犬「わさお」の人気はなかなかのものだったぞ。写真集まで出版され、まるでグラビアアイドル並み。書店で見たけど、どのページもよかにせとは言いがたいが、親しみやすく誠実・実直そうで、〝こいつなら絶対、裏切らないよな〟と思えたぞ。不二才には不二才の魅力がある」。

そういえば、面長でひげ面もスマートな大久保利通よりは、丸刈りずんぐりむっくりの西郷隆盛。ぶにせのイメージはどっこい〝西郷どん〟にあるのかも知れませんぞ。ラベル左脇に「薩摩の薩摩」とあるのも、薩摩隼人の心髄を思わせて何とはなし、うなずけます。
マーケティング戦略の世界では、大当たりの一発芸より、じわじわ~と息長くモテる方がよほど大事なのです。ネーミングの要諦でもあります。

最後に、再び傍目八目の声。
「富士山は不二山とも書き、その意味は『世に二つとない山』。しからば、世に二つとない才能を秘めているのが不二才、でしょう」。

きょうは、これにて。次回シリーズ16で。