すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ16</span>

どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ16

気安く、気軽に声を掛けられる言葉もあれば、ちょっと考えてみると、とても気安く、気軽に言えない言葉もある。はらはらどきどき、スリルとサスペンスが潜んでいるというのでしょうか。今回は、「おやっとさあ」と「いつもの奴」について。

既掲載は
(シリーズ15◆ハナタレ◆不二才(ぶにせ))
(シリー
ズ14◆青木昆陽、利右衛門◆佐藤)
 (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆おやじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)

 (シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
 (シリーズ6◆
虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5
◆いも神◆元祖やきいも)

 (シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆
百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)



何にも飾らない、庶民臭ぷんぷん
打ち水の玄関先で、どや?
●おやっとさあ●
(鹿児島・岩川醸造、芋)

こんなに面白く
楽しい絵柄のラベルに初めて出合いました。ズラーと並んだ酒の販売コーナーを順番に見てきて、このショッキング・ピンク地の絵柄が目に入った途端、自分の顔がフニャ~と和んだのが、自分で分かりました。何にも飾らな
い、庶民臭ぷんぷんの日常がラベルの中にありますな。

おやっとさあとは、ちょっとあいさつ程度の声かけ、「いやーっ、おつかれさん」、と言ったところでしょうか。

昭和30、40年代の夏、どこぞの町の横丁。打ち水された玄関前、縁台のある光景が連想できます。夕方の、ちょっと一杯タ
イム。綿のシャツにステテコ、腹巻き姿のご近所のおとうさんから、グラスを上げて、「おやっとさあ」と声をかけられれば、鞄を抱えて汗を拭きつつ、背広姿のままであっても、一緒にグラスを持ちたくなりますな。

おとうさんの頭、毛が1本波打ってて、「サザエさん」の波平さんみたいに見えますぞ。それ
とも酔い気分の湯気なのかな。

グラスの中身はビールではありません。ホッピー(分かるかな?)で割った、もちろん焼酎。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のような日本の郷愁、バス通り裏の懐旧。東京の下町だけでなく地方にも、かつてはこんな光景がたくさんありましたな。ほんと、ALWAYSいつまでも、
です。


もし、たまたま寄った居酒屋で、それもやきとりメインの居酒屋で、大将背後の棚に、このラベルのボトルが一面、ズラーと並んでいたら、きっと壮観でしょうな。疲れなんか吹っ飛んじゃいそうです。

さてもネーミング、絵柄ともに完全に肩の力が抜けきってます。ラベル原画を、大きな美術館なんかより、地区公民館の展覧会に飾った方がぐんといい。映えます。会場でピカイチ、間違いなし。


店選びと客選びのはざまにある言葉
常連度計る、リトマス試験紙

●いつもの奴●
(長崎・大島酒造、麦)

 
入店するなり、おしぼりで手を拭きつつ「いつもの奴」ってすんなり言える人は、きっと相当の常連でしょうな。この店の常連であることに相当自信があるんでしょうな。

あちこちの居酒屋に出入りしている、『吉田類の酒場放浪記』(BSテレビ)のファンだという先達が、常連にもランクがあると言ってました。そこでやわやわと、勝手に5段階のランク付けをしてみました。

▼常連度1、店に欠かせぬ大事な常連(お待ちしてました)
▼常連度2、一応歓迎されている常連(ようこそいらっしゃい)
▼常連度3、そこそこの常連 (あっ、いらっしゃい=あっ
の一言が2と3の分かれ目)
▼常連度4、振りの客+α程度の常連(そっか、また来てくれた?)(注文何にします?)
▼常連度5、しゃあないな常連(あんまりはしゃがないで)(

客はあんただけじゃないよ)
そして、▼欄外6 ありがたくない常連(どーも、うちの店とは合
わないよ)


初めての店で運良くカウンターに座り、ちびちびやっていると、店の雰囲気、居心地が、特に常連さんへの対応で分かるのです。自分も常連に加えてもらおうか、とりあえず2度、3度来てみようか、もう来ることはないかな…等々、壁のメニューや献立帳を眺めつつ、飲んべえは思案を巡らせているのです。

もちろん、ご近所ゆえの当たり前の常連と、振りの客から地道に通いの〝実績〟を積み上げてきた常連とでは、常連の意味合いも違います
。それでも「いつもの奴…」という一言は、客にとっても店にとっても、はらはらどきどきのリトマス試験紙なんですな。「いつもの奴…」が通じなかったら、出てきたアテが違っていたら、ちょっとした悲劇ですから。いや喜劇か。

2020年東京五輪が決定して以降、ポツ4つ付きの「お・も・て・な・し」がかなり一人歩きしましたが、一見だの、振りだの、連れだの 枝だの、馴染みだの、常連だの、日本の「客接遇」(もてなし)はややこしい。迎える店にとっては、セキュリティ(安心)とステータス(格)の物差しとなるから、おのずと細分化もする。大げさに言えば、カウンターを挟んで、
「客の店選び」と「店の客選び」のせめぎ合いが展開されているのです。自分の常連度を自覚しながら、おいしく飲みましょう。

きょうはこれにて。次回、シリーズ17で。