すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ≪32≫恋寅、こいじゃが</span>

焼酎ネーミングシリーズ≪32≫恋寅、こいじゃが

恋寅(佐賀県、宗政酒造、芋)

▼旅から旅、恋また恋から解放され
▼「恋人未満友達止まり」の切なさ
柴又駅前で寅さんの銅像に会った


  ● おーい 寅さん、こんなところにいたのか。本家返りしてほんとの虎になって。恋という字の冠までかぶっちゃって。
   寅よ、やっと落ち着くところに落ち着いたな。
寅よ、何かのびのびして見えるな。よかった、よかった。フーテン(瘋癲)の末が、意外や意外、焼酎のラベルの中ではあるけれどな。これでワシもひと安心というものだ。あんた誰?   ワシか、ファンという随伴者の一人のつもりなんだけどな。

 ●恋寅って、「恋する寅さん」の略称かい?    映画『男はつらいよ』の本質、コアな部分そのものだな。いまも発展途中の恋をしているのかい? 結末が心配な半面、ひとごとながら恋と聞くと、なんかこっちまでそわそわしてくるな。寅よ、頑張れよな。

   ● 失恋を重ねても、重ねても、一向にへこたれないフーテンの寅さんの恋心。いったんは傷心の奈落に落ちても、また懲りもせずに、旅すがら道すがら、お天道様が戯れに会わせてくれる女性に恋心を寄せる。それが、寅さんの常だったな。お天道様の仕掛けた気まぐれな恋とも知らずに。

    ●今度は
得恋かなと見守っていると、成り行きの方向指示器は、またぞろ失恋の方にゆっくりと傾いていく、カーブしていく。恋人気分から恋人未満、そしてとうとう、やはり友達止まり‥‥。「恋人未満友達どまり」は寅さんの天分であり運命だったのか。そうして、柴又帝釈天、経栄山題経寺の梵鐘が鳴る‥‥寅よ、帰って来よ。

   ●止むに止まれず、東京は葛飾柴又に行ってきましたな、数年前ですが。
駅前広場に、フーテンの寅さんの銅像がおなじみのかっこうで立ってました。そばに妹さくらの姿はなく、ひとり立つ姿はこころなしか、ちょっと淋しそうに見えましたな。


 こいじゃが(鹿児島、鹿児島酒造、芋)

▼探していたのは「これだ!」
▼英国車ジャガーの圭バージョン
▼おふくろの味、定番ナンバー1

 恋寅(こいとら)に続いて、課題は「こいじゃが」じゃ。


 ●その1 薩摩弁で、これだ!の意味だそうだ。


丹田(たんでん)に力を込め、大きな声で「こいじゃがー」と叫んでみれば即ち、(探していたのは)これだ、という意味だとすぐ分かる。
 これだ→これじゃ→こいじゃ→こいじゃが(念押しのニュアンスの「が」が付く
)と、転訛の推移を勝手に推測する。自画「自薦」のネーミングとは蔵元さん、なかなかやるな。
 方言の妙はさておき、「こいじゃが」だけではいかんせん、今ひとつ迫力に欠ける。以下、いくつかの「こいじゃが」を展開してみたい。

 ●その2 「恋ジャガーでどうじゃ。
なにしろ、最高ランク世界4位のプロテニスプレイヤー錦織圭選手が、英国車ジャガーのアンバサダー(大使役)を務めてますからな。自ら望んでジャガーのアンバサダーとなって、「圭バージョン」のオレンジ色のスポーツカーとともにCMにも登場している。自ら望んでというあたり、ひょっとして圭選手、ジャガーというクルマに恋していたのかもしれません。内装のしつらえ、外装、車体のオレンジ色まですべて「圭好み」設定というのも、さも有りなん。これでジャガーという英国の名車、日本であまねく認知されたのではないかな。

 年齢のせいか、はたまた長年のクルマ好きのためか、ジャガーと聞くと、肝心の草原勇躍の猛獣より、外車ジャガーを連想する。信号待ちで目の前にいる車に「あれ、ジャガーじゃないか」。すれ違った車に「あれ、ジャガーじゃない
か」。中空を駆ける車体先端のエンブレムを確認するまでもなく、ボディーライン、ランプ形状を見れば、英国車ジャガーと分かる。ぜひ、オレンジ色の圭バージョンにも遭遇してみたいものだ。英ロールスロイスが航空機エンジンに注力すべく自動車から撤退して久しい今、圭バージョンとの遭遇はクルマ好きの願望には違いない。ちなみにジャガーは今、インドのタタ・モーターズの傘下で、栄えあるブランドを守り続けています。

 ●その3  「濃いじゃが」でどうじゃ。
先ほど、全国展開する〇〇食堂の前を通って来たら、「おふくろの味  肉じゃが」と大書された看板が掲出されていた。今更ながら気づき、確認してきた
そうか、いまもなお、家庭料理の、おふくろの味の不動の定番、ナンバーワンは肉じゃがなのだ。昭和の割烹着姿のおふくろの味、これが昭和から平成へと、世代を超えて受け継がれている。メニューとは言うまい、献立と言おう。
 
彼女と結婚すべきかどうか迷ったら、手料理の肉じゃがを所望してみろ、という。〇と出るか、×と出るか。肉じゃがは家庭円満へのとりあえずのリトマス試験紙なんである。味付けは少々濃い方が酒の当てにもなる、とはいかにも付け足しか。

●その4 もう一つ「恋ジャガーはどうじゃ。
ビートルズと並ぶ英国のロックグループ、ローリングストーンズ。率いるのがボーカルのミックジャガー
ジャガーとは、ローリングストーンズの息の長いファンのことを言う(ほんと?)。
私ゃ、代表曲の『サティスファクション』より、『黒く塗れ』(ペイント イット ブラック)の方が好きですな。車内ステレオのわが定番の一曲。


きょうは、これにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ≪31≫かたじけない、円円</span>

焼酎ネーミングシリーズ≪31≫

かたじけない
(鹿児島、さつま無双酒造、芋)

脇差し真一文字に置き、深々謝意
○ラベル絵に映画『切腹』を連想
○まれには使ってみたい武士の言葉

かたじ
けない(忝い)。えらい四角四面、格式張った言葉を、焼酎の名前に持ってきたもんですな。裃(かみしも)、袴(はかま)姿の武士が発する感謝の言葉。現代にあえて使うとすれば、どんなシーンでしょうか?


▼例えば懇親の宴会。少~し聞こし召した頃合いに、思いがけず酒を注いでもらったら「あ、かたじけない」と謝意を表し、「いやいや何の」と応じられたら、「返杯でござる、受けてくだされ」と徳利を差し出すーーみたいなシーン。素面(しらふ)だとこっぱずかしくて、まず出てこない言葉でしょうな。さよう、ラベル絵=写真=の通り、武士道が言わせている言葉なんですな。

▼「して、宴席の続き」。
「貴殿」はなにゆえ、背広(スーツ)、ネクタイ姿で武士の言葉を使うのか。
「拙者」でござるか。「そうでござるな~」。<しばし、思案橋(長崎に負けず劣らず金沢にもこの地名はある)>のあと、「まぁまぁそう堅いことを言わずに。貴殿と拙者、おぬしとそれがしの仲ではござらぬか。ここは裃脱いで、ツーカーの呼吸で参りましょうぞ」。

ツーカー? 阿吽(あうん)の呼吸のことかい。そういえば、昔、携帯電話キャリアに「ツーカーフォン」というのがござったな。ほかに「ドコでモ」使えるよ、「エーなにユーたー?」っていうキャリアもござったな。3社合わせりゃ、いつでもどこでもユビキタス。何事も話せば分かる、というお題目みたいですな。こちら3題話も今は昔。

▼ちょっと見でも、ラベルの絵は印象が強烈ですな。武士が、わが命より重たい脇差を、真一文字に置き威儀を正している‥深々と頭を垂れている。
拙者なんぞ、仲代達矢主演のモノクロ映画の最高傑作『切腹』を想起しましたぞ。仲代の胆力みなぎる声、ひたひたと迫ってくる重厚な武満徹の音楽。
仕官を口実にどこぞの藩の上屋敷に赴いた娘婿が、切れるはずのない竹光でさらしもののように切腹をさせられた。義父が単身乗り込み、庭先で脇差を前に武士の誠、武士のあるべき情をとうとうと語り、そうして無念を晴らす刃傷に及ぶという筋立て。ラベルの絵柄は、映画がヒントになったに違いない、と思いたいですな。

▼それにしても、サラリーマンの背広は、侍の裃(かみしも)、鎧(よろい)みたいなもの。
背広上下にネクタイであれば、どんな所にも出入りも、顔出しもできる、気後れせず面会もできる…。一張羅の背広であればなおのこと、矢でも鉄砲でも‥‥みたいな気分にもなるから不思議。不退転の決意を示す上下は、勝負服ともいうそうだから、背広はまことサラリーマン戦士の裃、鎧ですな。

▼あいや、待たれい
おのおの方、参られよ
父上、母上、伯父上
貴殿、拙者、
其処許、彼奴
何と仰せられたか
さもありなん
是非もない
感服つかまつった
然らば、造作もないこと
御意、あい分かり申した 

たとえ片言隻句でも、TPO次第で裃袴気分で言ってみたいものですな。



円円(まろまろ)
長崎県壱岐、猿川伊豆酒造、麦)

○円やかの二つ重ねで、形容動詞
○「角」のあとには、一転「円」
○余談は名前、まろ、麻呂、麿‥


▼  角張った「かたじけない」から一転して、今度は何とも丸っこいネーミングですな。ラベルの「円円」の字も思いっきり丸く、でも、読みは音読みのえんえんではな

く、訓読みから「まろまろ」。きちんとルビが振ってあります。

▼ 円円(まろまろ)なんて聞き慣れないから、えっ、こんな言葉あったっけ?となるが、要は聞き慣れていない、人口に膾炙していない、それだけのこと。
形容詞「円やかな」の語幹の「円(まろ)」を二つ重ねれば「円円(まろまろ)」という形容動詞として成立しますな。「高い」の語幹を二つ重ねて「高々~」(たかだか)と同じなんですな。壱岐麦焼酎発祥の地、円やかな円やかな仕上がりなんでしょうな、きっと。

▼ 似ているようだが全然違う語句に、「笑笑」がある。居酒屋チェーンの店名で、わらわらと読むそうですが、見かけるたび、毎度毎度ずっーと違和感を感じてます。

  かなで「わらわら」は、ほとんど「ばらばら」と同義の擬態語であって、なにかしら切片が散り落ちてくるようすなど想像する。あて字を当てるにしても笑の字は無理でしょう。したがって、笑笑は広辞苑
にもありません。 
もっとも、誤用に誤用を重ねて「笑いの輻輳する、笑いがあふれる」意味で、笑笑が世間に広まれば、辞書登載の日も来るかも知れませんが‥‥。

▼ でもなぁ、最近の日本語はようわからん! なんか、漢字の表意性無視の、キラキラネームが世間に跋扈して以降、漢字がどんどん記号化していますな。
人名用漢字の「読みは自由」に原因があり、「戸籍に登録するのは漢字だけ。読みは登録しないからご勝手にどうぞ」というのでは、日本語の崩れをあえて促しているようなもの。弥縫策でも抜本策でも、とにかく改善策ヤ~イである。
 

▼ えらく堅い話になってしまった。円円路線に戻らねばー。
まろ、漢字で麻呂、麿といえば、古代に発する一人称。万葉歌人柿本人麻呂、最初の征夷大将軍坂上田村麻呂。現代では公家を演じてピカイチだった成田三樹夫の「まろ」、そして漫談家綾小路きみまろ(もちろん芸名)。姓は公家の香り漂う綾小路、名は高貴な人の尊称「君」に、古代の一人称「麻呂」をひらがなで。大変な芸名でお笑い界でブレークしてしまったものです。きみまろ師匠にはできれば今後、マイクでなく笏(しゃく)を胸の前に戴いてテレビ画面にお目見えを、とお願いしてみたいものですな。

  きょうは、これにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ≪30≫摩無志・のムし</span>

焼酎ネーミングシリーズ《30》摩無志・のムし

◆摩無志
(宮崎県、古澤醸造、芋)
◆のムし
(石川県、日本醗酵化成、麦)

/「摩」より「磨」の方がベター
/まむし・のむし、漫才いかが
/九州と能登の生まれの焼酎

● 摩無志と書いて、まむし、つまり蝮のことかい? では
、のむしって一体何だい?
 まむしがいくら毒蛇でも、酒に姿を変えたのなら「俺はまむしを飲むし…、絶対に呑むし…」、のむしだって? まるっきり金沢弁で意思表明ときたな。
しかし、まむしのむし、語呂がいいな、即コンビで採用しよう。

● で、俺の名はまむし、相方はのむし。蔵元には無断で漫才のコンビを組んでみる。本名の摩無志、のムしはこの際、休憩願って、オールひらがなで迫ってみるか。いずれ、漫才グランプリMー1にも絶対出るし‥。蛇毒の
効き目ありすぎて一発でチャンプになれるか‥も。

以下、しばし漫談調。

 ■ま■ 俺たちなんかより、大先輩の毒蝮三太夫さんだよ。立川談志師匠が亡くなったときぽろぽろ泣いたんだってさ。落語界の奇才、天才、風雲児といわれた師匠が名付け親だったもんな。
 ■の■ 最初、名前が決まったとき心中かなり複雑だったら
しいよ。芸名とはいえ常識外の名前、親にも言えないと思ったはず。
 あの「ウルトラマン」の、正義感の強いアラシ隊員が、お笑い界に入ったら、姓は毒蝮、名は三太夫(さんだゆう)だもんな。僕なら、もっとほかの名前をと抵抗するし、同情もしちゃいます。

 ■ま■ 毒蝮さんがテレビ番組「たまむすび」でインタビュー(聞き手・ピエール瀧さん)に語っ
たところによると、二人は同い年で親友。談志師匠がいつまでも俳優というわけでもなかろうとお笑いに誘った。で、師匠が企画し司会もしていた番組「笑点」の座布団運びを始めたんだってさ。あのいかつい体格、風貌で。これが、アンバランスが受けた。
 ■の■ ほんと世の中は不可解にして素晴らしいぜ、と僕は思う。以後、仕事が途切れなかったというんだから。俳優のほかにタレント、ラジオのパーソナリティなども。常識外れでアナクロニズムな芸名と、何を言っても許される特異なキャラクターのおかげでしょうな、ひとえに。

 ■ま■ 面と向かって、ジジイだのババアだの、早くくたばってしまえだの、よく言えるなと思う
罵詈雑言を並べても、爆笑に包まれる人気っぷり。俺は思うよ。毒蝮三太夫という名前とキャラクター、ありゃ、まごうかたなきお年寄りのアイドルだな、ウン。
 ■の■ ただね、談志師匠はさっさと改名すると思って

たらしい。ところが、ずっと〝後生大事に〟毒蝮三太夫のまま。とうとう、師匠は、俺の最高傑作作品は「毒蝮三太夫」だと言ったそうだ。まんま、立川流落語の世界みたいだと申し上げたいな、うん。
 ネーミングの難しさ、付ける方も付けられる方も、周囲もハッピーになる「いいネーミング」だったな。
 ところで、僕たちは親友か?商売の相方か。阿吽の呼吸まで行けるかな?

 ■ま■ はあ? それは今後の精進次第だろう。
南九州と能登、「良い腐れ縁」にはなりたいな。いい具合にまとまった。これでいいだろ?


ここで、漫談調を停止して、肝心のネーミングの由来。
 「摩無志」は、「己をみがき無となって焼酎造りの志を貫く」という真摯な意思表明だそう。
蛇足ながら厳密な字義からは「摩」よりも「磨」の方が適切と思いますよ。
 一方の「のムし」は、「のとのムギしょうちゅう」から頭3字を取って並べたとか。失礼ながらスカッと適当、単純明快なネーミングですな。およそ正反対ですな。


 南九州と能登が、金沢のたまさか同じ店舗で、たまさか陳列棚を同じくした。数奇な縁です。おそらく結んだ直線距離のほぼ真ん中は、四国・高知は「大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)」渓谷、駅名で言うなら土佐山田駅あたりではなかろうか。
遠距離の友好関係維持は難しいとは思うが、何より渓谷名が示唆していますな。おおボケ・こボケの、阿吽の呼吸よろしきコンビであってほしいとー。

きょうはこれにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《29》竃猫‥</span>

焼酎ネーミングシリーズ《29》竃猫‥‥

竃猫(へっついねこ)
(宮崎県、落合酒造 芋)
竈(かまど)
(鹿児島県、さつま無双酒造 芋)

▽同一の字に、訓読み2通り
▽関西「へっつい」 関東「かまど」
▽「火っ継い」が転訛か



● とんと目にしない難しい漢字。ラベルのルビにあるように「へっつい」と読むんですな。時代の進展とともに忘れ去られようとしている言葉、「へっつい」を商品名にするとは何と奇特な。それとも顧客の脳へ、一発刷り込みが狙いかな?

 
「竈」‥実は「かまど」とも読む、読めるんですな。最近は
家電量販店の炊飯器コーナーで、おいしさ追求をうたう元祖、本家「竃(かまど)炊き」などのキャッチコピーで見かけることも。もう一枚の焼酎ラベルの写真をご覧じろ。旧字の体裁ではあるが、明々白々、かまどはへっついと同一の字であります。今や、竃はおいしいご飯を象徴する得がたい字なのです。

北陸は、へっつい派
● ネットサーフィンしたところ、大雑把には、関西方面では「へっつい」、関東では「かまど」。どうしたことか京都では「おくど」(奥処)と言うそうな。

((北陸は透き通ったうどんつゆが示唆するとおり、関西風にへっつい派。ただ、北陸新幹線の開通で、関西よりも関東が段々近しくなってきていますな。早く関西まで延伸させないと、うどんつゆが濃くなっていく‥‥??))

「火っ継い」と解釈したい
● 古都のおくど=奥処の伝でいくと、かまどは「釜処」とも書けることになる。では、へっついは?
 独断が許されるなら「火っ継ぃ」と漢字を当てたいですな。火種を朝、昼、晩、そして翌日と継いでいくという意味で。
 かまどの火を落としたあと、まだ赤々とした炭を火消し壷に入れ保存するのはまぎれもなく「火継ぎ」行為。これが転訛して、関西方面では台所の装置を、「へっつい」と呼ぶようになったと考えたいですな。象形文字の意味が分からなくても、釜処、火継ぎなら、ご飯炊く処と想像できなくもないーー。独り合点。

●  それにしても、不思議なのは、同一の漢字に、語感が全く違う訓読みが二つそろったこと。関東と関西は相容れないとはいえ、特異な事態には違いない。
 これでは、古都・京都が「うちはどちらでもあらしまへん。『おくど』でいきますえ、ごめんこうむりやっしゃ」ーーと軽く啖呵を切ってもむべなるかな。また、啖呵を切らざるを得ない立場に追い込んでいるようなものですな。かまどとへっついの相克の果て。

調理の装置は、採暖の具
● 次に、猫について。こたつ(炬燵)の中の、金網をかぶせた小さな炉で炭火をおこした時代の猫は、♪猫はこたつ(炬燵)で丸くなる~だった。と言っても、せいぜいこたつの布団の上だった。豆炭あんか、電気ごたつを経て、ブラウン管テレビや電気カーペットの上と推移し、近年の猫は、発熱するパソコン周りでも丸くなっているとか。
 「竃猫」とは、こたつ以前の時期に、煮炊きが終わったあと余熱を求めて、丸くなっていた猫たちを指す成語なんですな。竃猫たちには、へっついとは採暖の装置だったんですな。今は遠い昔の猫の姿、生態が浮かんで来ます。

躍進どころか大飛翔
● 竃猫とネーミングした蔵元は、郷愁の情よほどの人、と推察します。LPGから都市ガス、IH電化コンロに取って代わられ、死語になろうとしていた言葉、漢字を、ありがたくも、良くぞ、酒販店の陳列棚に堂々、引っ張り出していただきました。大げさに言えば、消えゆく国語を守っていただいた。

 近年の「竃猫」は、台所周辺をうろうろどころか、国際線飛行機に「搭乗」しているとか。機内食にショーチューとして供され、愛飲されているらしい。
陸を躍進どころか、空を大飛翔ですな。出世魚ならぬ出世猫。


きょうは、これにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《28》能登ちょんがりぶし</span>

焼酎ネーミングシリーズ《28》

能登ちょんがりぶし
(石川県珠洲市、日本醗酵化成、麦)

▽じょんから、じょんがら、ちょんがれ‥‥
▽願人坊の門付け、遊芸から盆踊り唄
▽念仏の口説き交え切々と?

● ラグビー日本代表五郎丸歩選手の、“五郎丸ルーティン”風に印を結び、ちょんがり~ちょんがり~と唱えると、あら不思議、とんがり~とんがり~と、とんがりやまが出て来るんですな。
 
「尖山」と書いてとんがり山。
標準語的にはとがりやまとも。3000㍍級の北アルプス立山連峰につながる低山(富山県立山町)で、標高わずかに559㍍。地鉄電車から見える、ピラミッドのような、きれいにとんがった山です。
 一度聞くと、忘れられない稚気あふれる山の名、一度見ると「あぁ、あの」といつ
でも思い出せる愛嬌ある円錐形の山。なかなかユニークな、実に第一印象の強い山なんですな。
 四股名を尖山
(こちらは「とがりやま」)という富山出身の力士もいました。地方局のテレビインタビューで、四股名の由来について問われ、「高校生時代、通学の行き帰りに電車の窓から眺めていた山」と語っていたのが耳に残っています。ーーー以上、ちょっと寄り道でしたな。


● 寄

り道はさておき、ちょんがり~唱えの第2弾。今度は野々市じょんから」(石川県野々市市津軽じょんがら」青森県)が出てきました。
 野々市
ょんからは、町から市になってもずっと変わらぬ地域の風物詩であり、代名詞。じょんから祭りの時期が近づくと、街中のあちこちでポスターが目に入り、「野々市=じょんから」に染まります。

● 津軽じょんがらは、太棹でバチも大きい津軽三味線が国際的に有名になりましたな。うねる吹雪の中を、細く一条の三味線の音が聞こえて
くる、近づくにしたがい三味の音は大きくなり、やがてたたきつけるような激しさが、さながら命の高ぶりを伴って響いてくるー。初代高橋竹山のじょんがら世界はあまりにも有名ですな。近年は若手奏者らが海外に飛び出し公演を成功させています。日本の弦楽器としていずれ、世界的に認知されるのでしょうな。
 
エレキの津軽じょんがら節、いいな
● 寺内タケシとブルージーンズのLP盤を初めて聞いたときも、びっくりしました。エレキギターによる津軽じょんがら節の斬新なこと。ほかにノーエ節、ひえつき節もエレキで。ヴェンチャーズに勝るとも劣らない寺内流エレキ・テクニックで、アレンジで、五箇山の「といちんさ」「城端麦屋節」はじめ全国の民謡を広く深くカバーしてほしいと願います。「運命」「ツィゴイネルワイゼン」などのクラシックシリーズも聞いていますがね、民謡の新たな一面を新たな音で聞いてみたいのです。

●● さて、肝腎要の「能登ちょんがりぶし」。
 珠洲や輪島に伝わる盆踊り唄の一種で、珠洲では保存会によりちょんがり節、ちょんがり踊りの継承に力が入っていますな。関西方面ではちょんがれとも。つまり、ちょんがり、じょんから、じょんがら、ちょんがれ4者はいずれが鶏で卵かは知らねども、伝播していく際に発音が転訛し、しかし根っこはみな同じのようです。
 念仏を取り入れた盆踊り唄。そのはじまりをたどれば、願人坊いわば願掛けの代参人の門付け、あるいは大道で披露して回った諸国遊芸、放浪芸にまで遡るようですな。何しろ、珠洲は中世に広範に流通した古窯、珠洲焼のふるさとであり、輪島は輪島塗の産地。江戸時代、願人坊も多く訪れたに違いありません。

 話が遊芸、放浪芸あたりに及んでくると忘れてならない人、俳優にして大衆芸能史研究家、小沢昭一翁(1929ー2012年)の世界ですな。晩年はすっかり学者の顔と、拝見致しておりました。

● ずっと気になっていた能登ちょんがりぶしという銘柄。輪島出身の友人に薦められ、遅まきながらシリーズに加えることができました。前回の「ダバダ火振」といい「能登ちょんがりぶし」といい、風土、風景が見えてくるような焼酎ネーミングでした。

 きょうは、これにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《27》</span>

焼酎ネーミングシリーズ《27》

ダバダ火振
高知県、無手無冠、栗)

スキャットにあらず方言だった
▽「駄場」+清流の漁法「火振」
▽駄に潜む「立派なB級」の意

●  ダバ

ダバダバダバダバダバダバダバ ウーダバダ

   てっきり、ジャズのスキャットから、膝でも揺らしながらウードゥビドゥビとノリにノッテのネーミングだと思っていた。焼酎ラベル界の新風だなと。
ところが、これが全然違うってこと、奈良の友人から知りました。

ダバは何と日本語、それ
も高知の方言で、しかも歴とした地名もあるそうだから驚き。

● 漢字で「駄場」四万十川流域の山あいの地では、人が寄り集まる平坦地を指す。山を登っていくと突然のように開ける、それが駄場なのだとか。仮にそうなら、全然「駄な場」ではないですな。

縄文の集会所・ロングハウス
 なぜならいつの世も共同社会あるいは集落にとって、人の集まる場は最も大事な場であって、例えば、北陸の縄文人は集落のほぼ中央に集落の力を結集して、集
会所でもある大型長屋《ロングハウス)を建てた。冬の豪雪時でも集まれる場を確保した。それくらいのものです、人を結ぶ場の大切さというのは。駄場は、「駄な場」にあらずなのである。

● それにしても、駄の字のイメージはよろしくありませんな。基準より下、取るに足りない等々のニュアンスがせせり出てくる。が、果たしてそうか?
例えば駄菓子。上品そうにいただくスィーツもいいが、コタツでボリボリ、机仕事の合間にポリポリが、これまたいい。
平々凡々すぎてこれまで気づきもしなかった良さ。それが「駄」の字には潜んでいる。決してA級ではないが、A級を上回る「立派なB級」が駄の意味ではなかろうか。

● ちなみに、火振(ひぶり)は、川面にたいまつの火を揺らせて鮎を誘い込む四万十川伝統の漁法とか。川の漁り火であり、集魚灯による漁だが、可能なのも透き通った清流ならでは。蔵元の名「無手無冠」(むてむか)が、余分な手を加えず何も加えないという意味なら、コンクリートの堤堰など一切無い自然のままの川にふさわしい蔵元のネーミングではありますな。

● 珍しいクリ焼酎を、今宵、駄場駄場駄場駄場、ウー駄場駄場‥‥と口ずさみながらグラスに注ぐとしようか。

きょうは、これにて。
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<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ《26》</span>

焼酎ネーミングシリーズ《26》明るい農村、農家の嫁

□明るい農村
□農家の嫁
(鹿児島県、霧島町蒸留所、芋)

◆半世紀前の散居農家ほうふつ
◆いろり、縁側、スイカぷかぷか
◆TPP後、健全な農業環境とは


● 「明るい農

村」なんて、およそ焼酎の名前ではありませんな。自治体にょっては農村環境改善センターという名称の建物が残っている所まだまだ多く、かつての農林省が推進した「農村環境改善運動」の標語か?と思いました。
で、首が勝手に数十度傾きましたな。どうも、これは
時代の雰囲気がかなり、ずれているぞー。

 ● 柱も梁もぶっとくて、いろりがあって、祖父が薪をくべていて、自在鉤のずっと先天井を見上げても、幾世代分の煤のせいかぼんやり薄暗く、屋敷林で日が遮られがちな奥の座敷はなにやら気配があって、今思うと民俗で言う座敷童子というやつだったか。縁側があって、土蔵があって、農機具置き場あたりではヤギが戯れ、鶏小屋には産みたての卵が転がっていて、裏手を流れる川の掘割にはスイカ、トマト、甘ウリがぷかぷか浮いていて、手を浸すと真夏でもひんやり冷たい…。

● 「明るい農村」というこのラベルのおかげで、母親の里、富山県砺波地方の散居集落の風景が、ふんわりとよみがえってきたのです。

● 1960(昭和35)年代、どこの農家もまだ「明るい農村」でした。農業の先行きにさしたる不安も陰りもなく、明るさに包まれていた。どこの農家にもあった「家の光」という農家向け総合雑誌は、ひょっとして明るい農村を象徴していたのかもしれません。
東京オリンピック(昭和39年)が数年後に控え、いよいよ本格的に高度経済成長期に入っていく時代の高揚感が、都会から農村にも波及してきた…。ラベルが醸し出しているのは、半世紀余り前、遠い昔の「農」の雰囲気なんでしょうな。

● TPP(環太平洋連携協定)交渉が合意に達しても、なお大きい農家の不安感。合

意項目がいざ実施されれば、焦点中の焦点だった我が国の農業はどのように変わっていくのでしょうか、農村環境はどう変革を迫られるのでしょうか。農家は昔のように再び「明るい農村」になれるでしょうか。
減反やら品目横断やら農政は迷走してきただけに、TPP移行後の農業、農村、何より農家の人たちの按配が、誰しも気にもなるところです。

姉さんかぶりとやかん

● じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの三人でこなす三ちゃん農業。大黒柱のとうちゃんは会社勤めに出て、二つの稼ぎを足して合わせての「兼業農家」が、地方に、田舎に豊かさをもたらす。高度経済成長期の農家の姿でした。
ラベルをよくよく見ると、姉(あね)さんかぶりの若嫁さんが大きなやかんを手に提げていますな。銘々皿ならぬ銘々魔法瓶の普及いまだしのころ、大きなやかんは、「三ちゃん農業」の農作業一服の時の必需品でした。野良での一服を重ねるうち、やがてじいちゃん、ばあちゃんに代わって若嫁が農家を切り盛りしていく…。まだ、農業への抵抗感が薄かったころ、やかんは農家切り盛り役バトンタッチの象徴だったように思われますな。

● さて、「明るい農村」のボトルを180度ひっくり返して、裏ラベルを読んでみると、こう記されている。
「よき焼酎は、良き土から生まれる。良き土は、明るい農村にあり」。
なるほど、これがネーミングの由縁か。素朴で単純明快な宣言。蔵元の揺るぎない信念の一文は、もはや哲学ですな。一枚のラベルが半世紀前をフラッシュバックさせてくれるのも道理であり、これぞ、「ネーミングの威力」。

● それにつけても、女性が農業を魅力ある職業と捉え、進んで「農家の嫁」いや表現を変えるなら「農するひと」を選択するような時代が来てほしいと念願しますな。TPPで農村環境が変わったとしても、明るい方へと活路が開けてゆくー。何しろ、農業は、国を支える永遠の基幹産業ですから。


きょうは、これにて。
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