すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">焼酎ネーミングシリーズ≪31≫かたじけない、円円</span>

焼酎ネーミングシリーズ≪31≫

かたじけない
(鹿児島、さつま無双酒造、芋)

脇差し真一文字に置き、深々謝意
○ラベル絵に映画『切腹』を連想
○まれには使ってみたい武士の言葉

かたじ
けない(忝い)。えらい四角四面、格式張った言葉を、焼酎の名前に持ってきたもんですな。裃(かみしも)、袴(はかま)姿の武士が発する感謝の言葉。現代にあえて使うとすれば、どんなシーンでしょうか?


▼例えば懇親の宴会。少~し聞こし召した頃合いに、思いがけず酒を注いでもらったら「あ、かたじけない」と謝意を表し、「いやいや何の」と応じられたら、「返杯でござる、受けてくだされ」と徳利を差し出すーーみたいなシーン。素面(しらふ)だとこっぱずかしくて、まず出てこない言葉でしょうな。さよう、ラベル絵=写真=の通り、武士道が言わせている言葉なんですな。

▼「して、宴席の続き」。
「貴殿」はなにゆえ、背広(スーツ)、ネクタイ姿で武士の言葉を使うのか。
「拙者」でござるか。「そうでござるな~」。<しばし、思案橋(長崎に負けず劣らず金沢にもこの地名はある)>のあと、「まぁまぁそう堅いことを言わずに。貴殿と拙者、おぬしとそれがしの仲ではござらぬか。ここは裃脱いで、ツーカーの呼吸で参りましょうぞ」。

ツーカー? 阿吽(あうん)の呼吸のことかい。そういえば、昔、携帯電話キャリアに「ツーカーフォン」というのがござったな。ほかに「ドコでモ」使えるよ、「エーなにユーたー?」っていうキャリアもござったな。3社合わせりゃ、いつでもどこでもユビキタス。何事も話せば分かる、というお題目みたいですな。こちら3題話も今は昔。

▼ちょっと見でも、ラベルの絵は印象が強烈ですな。武士が、わが命より重たい脇差を、真一文字に置き威儀を正している‥深々と頭を垂れている。
拙者なんぞ、仲代達矢主演のモノクロ映画の最高傑作『切腹』を想起しましたぞ。仲代の胆力みなぎる声、ひたひたと迫ってくる重厚な武満徹の音楽。
仕官を口実にどこぞの藩の上屋敷に赴いた娘婿が、切れるはずのない竹光でさらしもののように切腹をさせられた。義父が単身乗り込み、庭先で脇差を前に武士の誠、武士のあるべき情をとうとうと語り、そうして無念を晴らす刃傷に及ぶという筋立て。ラベルの絵柄は、映画がヒントになったに違いない、と思いたいですな。

▼それにしても、サラリーマンの背広は、侍の裃(かみしも)、鎧(よろい)みたいなもの。
背広上下にネクタイであれば、どんな所にも出入りも、顔出しもできる、気後れせず面会もできる…。一張羅の背広であればなおのこと、矢でも鉄砲でも‥‥みたいな気分にもなるから不思議。不退転の決意を示す上下は、勝負服ともいうそうだから、背広はまことサラリーマン戦士の裃、鎧ですな。

▼あいや、待たれい
おのおの方、参られよ
父上、母上、伯父上
貴殿、拙者、
其処許、彼奴
何と仰せられたか
さもありなん
是非もない
感服つかまつった
然らば、造作もないこと
御意、あい分かり申した 

たとえ片言隻句でも、TPO次第で裃袴気分で言ってみたいものですな。



円円(まろまろ)
長崎県壱岐、猿川伊豆酒造、麦)

○円やかの二つ重ねで、形容動詞
○「角」のあとには、一転「円」
○余談は名前、まろ、麻呂、麿‥


▼  角張った「かたじけない」から一転して、今度は何とも丸っこいネーミングですな。ラベルの「円円」の字も思いっきり丸く、でも、読みは音読みのえんえんではな

く、訓読みから「まろまろ」。きちんとルビが振ってあります。

▼ 円円(まろまろ)なんて聞き慣れないから、えっ、こんな言葉あったっけ?となるが、要は聞き慣れていない、人口に膾炙していない、それだけのこと。
形容詞「円やかな」の語幹の「円(まろ)」を二つ重ねれば「円円(まろまろ)」という形容動詞として成立しますな。「高い」の語幹を二つ重ねて「高々~」(たかだか)と同じなんですな。壱岐麦焼酎発祥の地、円やかな円やかな仕上がりなんでしょうな、きっと。

▼ 似ているようだが全然違う語句に、「笑笑」がある。居酒屋チェーンの店名で、わらわらと読むそうですが、見かけるたび、毎度毎度ずっーと違和感を感じてます。

  かなで「わらわら」は、ほとんど「ばらばら」と同義の擬態語であって、なにかしら切片が散り落ちてくるようすなど想像する。あて字を当てるにしても笑の字は無理でしょう。したがって、笑笑は広辞苑
にもありません。 
もっとも、誤用に誤用を重ねて「笑いの輻輳する、笑いがあふれる」意味で、笑笑が世間に広まれば、辞書登載の日も来るかも知れませんが‥‥。

▼ でもなぁ、最近の日本語はようわからん! なんか、漢字の表意性無視の、キラキラネームが世間に跋扈して以降、漢字がどんどん記号化していますな。
人名用漢字の「読みは自由」に原因があり、「戸籍に登録するのは漢字だけ。読みは登録しないからご勝手にどうぞ」というのでは、日本語の崩れをあえて促しているようなもの。弥縫策でも抜本策でも、とにかく改善策ヤ~イである。
 

▼ えらく堅い話になってしまった。円円路線に戻らねばー。
まろ、漢字で麻呂、麿といえば、古代に発する一人称。万葉歌人柿本人麻呂、最初の征夷大将軍坂上田村麻呂。現代では公家を演じてピカイチだった成田三樹夫の「まろ」、そして漫談家綾小路きみまろ(もちろん芸名)。姓は公家の香り漂う綾小路、名は高貴な人の尊称「君」に、古代の一人称「麻呂」をひらがなで。大変な芸名でお笑い界でブレークしてしまったものです。きみまろ師匠にはできれば今後、マイクでなく笏(しゃく)を胸の前に戴いてテレビ画面にお目見えを、とお願いしてみたいものですな。

  きょうは、これにて。
ポパイに、ほうれん草
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