すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">どうにも熱い、焼酎ネーミング シリーズ19</span>

 ときには焼酎の銘柄に、あるいはラベルに教えられることもあります。簡単な説明書きが、いろいろ調べ出すきっかけになることもあります。今回は、アカデミックなネーミングの「那由多の刻」と「欧羅火」について。

既掲載は

(シリーズ18◆えじゃのん おんぼらぁと◆次郎冠者)
(シリーズ17◆はげあたま◆河童の誘い水)
(シリーズ16◆おやっとさあ◆いつもの奴)
(シリーズ15◆ハナタレ◆不二才(ぶにせ))
(シリー
ズ14◆青木昆陽、利右衛門◆佐藤)
 (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆お
やじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)

(シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
  (シリーズ6◆
虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5
◆いも神◆元祖やきいも)

(シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆
百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)



10の60乗、めまいする心地
もやは孫悟空の飛翔、仏教哲学の世界

那由多の刻(なゆた・とき)◆
(宮崎・雲海酒造、そば)

雅な語感ですな…ナユタ。初めて知りました。計数、計算の単位に漢字3文字の単位があることを。1ナユタ、2ナユタ、3ナユタ…。語感に感動し、日本語らしいのか、日本語離れしているのか、はてどっちだ?と考えもしました。


 そして、那由多の正体はと言えば、ケタ数をいくつもいくつも、♪飛んで飛んで飛んで~、実に60桁も飛んだのだ。あなた、大丈夫ですか? 10の60乗について来られますか? めまいを感じたらおっしゃってください。かなりのロングケアが必要ですから。

  国家予算の単位「兆」(10の12乗)でさえ、随分と小さく思えます。
一時、演算スピード世界一だった国産スーパーコンピューター「京」(けい)は兆の1万倍、即ち10の16乗です。このときでさえ、数字のスケールに軽いめまいを覚え、真っ赤な筐体の「京」の字の揮毫にばかり注目したものです。「勢いのあるいい京の字だな。揮毫の主は、書家は誰だろう?」と、脇道の想像ばかりしてましたな。

しかし、那由多を超えて、さらに上には上があるのです。4文字の単位「不可思議」と「無量大数」。不可思議は10の64乗(那由多の1万倍)、無量大数は実に、10の68乗(那由多の1億倍)です。

もはや数学的世界を突き抜けて、仏教哲学の世界に突入ですな。

無量大数、2無量大数、3無量大数…。数字の行き着く果てが仏教哲学の世界なら、なにやら科学も、「孫悟空、所詮お釈迦様の掌の内」というのと似てますな。大きな単位があったものです。
そうしてみると、無量寿経という経典の深遠さも何とはなしにうなづけ、金沢市内によくぞ無量寺という地名があってくれた、と妙な感心もしますな。

いかがでしたか、「那由多の刻」のめまいするような酔い心地。
人の世の「邯鄲の夢」なんて、ほんと一瞬のこと。小さい、小さい。



欧州文献に登場の米の蒸留酒とは
薩摩に流入していた琉球泡盛
◆欧羅火(オラーカ)◆
(鹿児島・薩摩酒造、米)

漢字のままに「おうらか」と読んではいけない。小さくてもきちんと、オラーカと、カナが振ってある。

ラベルに印刷されている説明によるとー。
1546(天文15)年に薩摩を訪れたポルトガル人の貿易商
人ジョルジェ・アルバレスが、本国にあてた『日本報告』という書物を残している。天文年間といえば本格的に戦国時代に突入していくころ。3年前の天文12年には種子島に鉄砲が伝来し、3年後の同18年には宣教師ザビエルが日本にやってくる。その書物の中に、この地には米の「orraqua」(オラーカ、アラビア語蒸留酒があると、記録されている。これが焼酎がヨーロッパの文
に登場する最初とか。
 
それにしてもオラーカに、欧羅巴(ヨーロッパ)の頭2字に、
蒸留の意味を込めたと思われる火の字をプラスして、【欧羅+火】。アラビア語の発音をなぞりつつ、実に巧みなネーミングです。アカデミックな動機の焼酎に仕上がっている、というほかありません。

BS放送『世界まち歩き』のトルコ編で、ひげの年寄りたちが、小さなグラスを掲げ口々に、中の酒を「ラキ(蒸留酒)」だと言う。トルコでは、長年月を経てオラーカの母音が抜け、ラーカがラキに転訛したようです。トルコと日本に同源、同根の蒸留酒の来し方があったんですな。

 
もう一点、言及するなら、『日本報告』に記された米原料のオラーカとは、琉球産の泡盛ではないか、ということ。
甘藷(さつまいも)の普及は江戸時代、東の青木昆陽、西の前田利右衛門により、特に利右衛門は甘藷を琉球から薩摩に持ち込んだ人物。
言わずもがな泡盛タイ米を原材料にした、海洋の貿易立国・琉球ならではの蒸留酒。詰まるところ、甘藷普及以前の戦国時代初めに、すでに米の蒸留酒が薩摩にあったとすれば、琉球から泡盛流入していたとしか考えられない。これがのちの芋焼酎の先駆となった、と見なせるんですな。

「欧羅火」のネーミングからは、蒸留酒、焼酎、泡盛の、洋の東西を超えた歴史的通底、つながりが浮かび上がってくる。そう感じますな。

以下は全くの付記。
写真でご覧の、このボトルの栓は「機械栓」と言うそうです。金沢・大野の醤油メーカー、直源醤油(株)さんを訪ね、製造本部長の松森誠さんに尋ねてようやく判明した。なんでも、大阪のガラス容器メーカー大商硝子(株)で造られ、手作業だったコルク栓などに対して、機械栓と今でも呼ばれているという。てっきり、てこ利用だから「てこ栓」かな?と思っていたら大違いでした。

スクリューキャップや王冠などに比べると、確かに封緘性に若干劣るかもしれないが、キャップ紛失の恐れのない、リユース可能な優れてエコな栓ではある。もっと復活重用されていい。
絶滅危惧種”にしてはいけませんな。
ビンの色や形状と併せ、見かけるとコレクションしたくなる逸品ですな。
(ちなみに写真はマイコレクションから)

きょうは、これにて。次回シリーズ20(終)で。