すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">どうにも熱い、 焼酎ネーミング シリーズ14</span>

 前回、歴史上の人物の名を冠した焼酎の銘柄を取り上げてからのち、サツマイモ普及の恩人の名はないの? ネーミングに採用されてないの? と疑問に思っていました。芋を語るに欠かせない名前を、ラベルをついに見つけました。しかも二人も! シリーズ14は「青木昆陽」と「利右衛門」について。

既掲載は
 (シリーズ13◆小松帯刀◆鉄幹)
(シリーズ12◆さそり◆もぐら)
(シリーズ11◆天魔の雫◆知心剣
(シリーズ10◆天孫降臨◆不阿羅王)
(シリーズ9◆晴耕雨読◆おやじの誇り) 
  (シリーズ8◆この地に天使が舞い降りた。 天使のささやき 恋あじ◆両思ひ)
(シリーズ7◆今も昔も焼酎は、西、岩倉 月の中◆二階堂 吉四六
 (シリーズ6◆
虎の涙◆蔵人の戯れ)
(シリーズ5
◆いも神◆元祖やきいも)

 (シリーズ4◆魔女からの贈りもの 魔法のくちづけ◆うわさのいい夫婦)
(シリーズ3◆
百年の孤独◆問わず語らず名も無き焼酎)
(シリーズ2◆銀座のすずめ◆とんぼの昼寝)
(シリーズ1◆六地蔵の夜仕事◆我伝直伝)

救荒作物として着目、東の甘藷先生と西の甘藷翁
ともに社にまつられ、神となる
青木昆陽(福岡・篠崎、芋)◆
◆利右衛門(鹿児島・指宿酒造、芋)◆

大手ショッピングモール、酒の量販店を訪ね歩くうちとうとう出会えました。甘藷先生こと「青木昆陽」というラベルの焼酎に。有ってしかるべきと実は気になっていたのです。 
ーー確か、救荒作物と

して栽培普及を図ったはずなのに酒だと? 本格焼酎の原材料として日本の酒文化を牽引していると? かれこれおよそ300年もたつか。目が白黒するな。まっこと意外なことよのうーーと、仰ったかどうか。

 外来のイモについて『蕃藷考』を著した昆陽先生。千葉の地(九十九里町)で4年間、甘藷の試験栽培を重ね、8代将軍吉宗のときに幕府に、飢饉に備える救荒作物として普及を進言した。成果は東日本を中心に全国に広まり、飢えから人々を救った。幕張の地に昆陽神社があり、芋神様と崇められる通りである。

「利右衛門」(鹿児島・指宿酒蔵、芋)という銘柄は、酒量販店の棚で見かけてから何を成した人物か、ずっと気になっていた。琉球から薩摩に、唐芋の呼び名もある苗を持ち帰った水夫の名前(明治に前田姓)というではないか。利右衛門の苗は、火山灰地ゆえに水田耕作が難しい南九州で干ばつ飢
饉の恐怖から人々を解放したそうです。実は、昆陽先生が試験栽培していた甘藷とは、薩摩藩から取り寄
せた「薩摩芋」の苗だったんですな。
 甘藷とは「甘いイモ」の意の生薬名で、薩摩芋、サツマイモの呼称は生育繁茂の地=薩摩という天下御免の証明書のようなものですな。救荒作物いろいろあれど、対飢饉効果ピカイチの農作物だったのです。
 昆陽に昆陽神社があり甘藷先生なら、利右衛門には徳光神社があり
甘藷翁と、それぞれまつられ慕われているとか。薩摩芋普及の東と西の功労者といえますな。ラベルの色味もそれぞれに、生存への希望と感謝があふれているような……。

単式蒸留の乙類は法的に
本格焼酎」というジャンル名を得て、日本酒と並ぶ、我が国酒文化の一方の雄となった。その牽引役が、《飲めるスイーツ》と言う向きさえある芋焼酎なんですな。
芋や麹の品種改良が進み、香りと味を追求する百花繚乱ぶりは、芋に限らず、麦、そば、米焼酎の、ネーミングの世界が示唆しています。

九州に足跡のない遠方の甘藷先生の名を銘柄にした福岡の蔵主、
苗をもたらしてくれた甘藷翁の名をラベルにした鹿児島の蔵主。大恩ある見果てぬ人に宛てて、ラブレターを出すような心地の、謝恩のネーミングだったのではないでしょうか。



奇抜さゼロでも全国最多名字の強み
一等優れた?ネーミング手法
◆佐藤◆
 (鹿児島・佐藤酒造、芋)

いったい何というネーミングだろう。全国最多、ナンバー1の名字を、いくら蔵元が佐藤酒造だからと言って、そのまま銘柄にするとは。
安易に過ぎて、奇抜さゼロ、斬新さゼロ、首をひねった痕跡ゼロですな。
googleの検索結果は、表示ページ数に応じてgoooooooooogleなどと「O」(オー)がたくさん並ぶが、このネーミングに佐??????????藤と「?」をいくつも並べたい。それほど訴求効果に?を付けざるを得ません。

しかし、よ~~く考えてみると、半面ではなくて反面、これ以上は望めない「最強のネーミング」かも知れませんぞ。なぜなら、全国の佐藤さんが「これぞ俺のマイ焼酎、マイブランドだ」と買ってくれたら、そ

れだけでベストセラー焼酎の座を狙える!!

名字由来ネットによると、佐藤姓は全国で軽く205万人を超え、二番手の鈴木さん(180万人)を大差で凌ぐ。「佐藤さ~ん」と列
島に声をとどろかせれば、205万人が「はーい」と返事する。北陸の石川、富山両県の合計人口が視野に入る数字だ。1世帯4人家族としても、マイ焼酎は51万本は売・れ・る。

う~~む、とんでもないネーミングの手法、逆転の発想ですな。マーケティング戦略上、一等優れたネーミングのような気がしてきました。私も自分の名字、自分の名前の焼酎があったら、欣喜雀躍するに違いありませんから。
凡庸と映っていたラベルが俄然、光り輝いて見えてきますな。仮にたまさかの帰結であったとしても、名字だけのラベル登場は、全国最多
の名字にこそ許される栄誉なのかも知れませんな。

ちなみに佐藤姓は、北海道・東北で濃く強く、各道県で軒並み1位か2位を占め、逆に蔵元の所在する九州では淡く弱く、鹿児島県ではなんと79位とか。
濃淡の度合いが北と南で全く逆ではありませんか。地元こそ大事なのに…。蔵元さん、この段どう考えます? えっ、「大勢に影響なし」「全国スケールで考えてます」ですと? 
そう聞こえたのですが…。どっしり感のほど、さすがというべきでしょうか。 

きょうは、これにて。次回、シリーズ15で。