すーてき散人空の紙

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<span itemprop="headline">直木賞作家の親指シフト宣言</span>

直木賞作家の親指シフト宣言◆

☆既にガラパゴス化の極にあるような、一般には忘却の彼方にあるような言葉が、第150回直木賞受賞作家、姫野カオルコさんの受賞会見で飛び出した。「(執筆の)道具として親指シフトキーボードを使っています」。プロの物書きに愛好者は少なくないと言われてきたが、受賞時の表明は初めてでしょうな。

  ☆富士通が開発した親指シフトは文章を書く手段、方法を変革した。毛筆から鉛筆、万年筆、そして、手書きを離れて、両手の十指で漢字かな混じり文を打っていくー。いわば純粋な「日本語タイプライター」は、間違いなく日本語史上の発明だった、と思う。

  ☆ローマ字変換は、欧米発のQWERTY配列キーボードのいわば「転用」に過ぎない。作家にとっては、子音+母音の「ローマ字思考」より、単音節の「ひらがな思考」の方が断然、スムーズに言葉を紡いでいけるに決まっている。インターネットによるグローバル化の波にもまれても、ローマ字変換一辺倒の影で、限られた分野とはいえ、親指シフトがなお健在である理由であろう。

  ☆それにしても、もともと電信用途のQWERTY配列は、強い。より合理的なキー配置のドヴォラク配列が登場してもこれを押しのけ、退け、世界的な標準キーボードとして今も君臨している。おそらく今後も、この構図はずーっと変わらない。こういうのを人間の慣れを覆すのは至難、と言うんでしょうな。

  ☆ところで、我が家には親指シフトワープロ、即ちOASYSシリーズの機器が幾つもある。取っ手とふたの付いた普及期のLiteF、重量8キロのワープロ通信(古いな!)もこなす可搬型の30AF2、ベテランのNHK女性アナウンサーも愛用していたオアシスポケット2など。ほかに親指シフトキーボードの独自OSパソコン、FMtowns2も。
かなり「国産の発明」に共感しのめり込んでいたのだが、残念ながら親指シフトは大勢とはなり得なかった。いずれの機器も今は深い眠りの底にある。

  ☆近年の注目はキングジム社のメモ機「ポメラDM100」。薄さと軽さの頂点を極めたようなテキスト入力専用機(筆記具!)だが、親指シフトキーボードとしても使え、そのためのキートップシールを同梱している。使ってみても、私に30年前の親指シフト感覚がすんなり戻ってくるかどうか疑問。きっと戻ってこないだろうな。というわけで、カタログ所蔵にとどまっている。
「一隅を照らす」という言葉がある。親指シフトはたとえ一隅であろうとも、今後も日本語を照らし続けてくれるはず。
  きょうは、これにて。

(写真はいずれも自宅で。取っ手付きLiteF、ワープロ通信OKの30AF2、FMtownsキーボード。オアポケはどこにまぎれ込んだか不明、撮影に間に合わず)