すーてき散人空の紙

北陸発、テキスト偏重、テーマは原則その時々、気分次第の旬刊ないし月刊、あるいはときどき不定期刊のブログです。

<span itemprop="headline">番外 創業の地への敬意無し 社名も泣く</span>


創業の地へ敬意なし
◇「不二越」の社名も傷つける
◇会長の富山県民性を謗る発言
◇トップの蒙昧は企業に害
「山向こうに勇躍」の歴史学

●別にシャレではありません、新聞記事を一読して、思わず「ホンマかいな」とつぶやいた。自社創業の地を誹謗、愚弄する物言い次々。まるで国内版ヘイトスピーチの類ではないか。

●産業用ロボット製造の東証一部上場企業「不二越」(富山市)の本間博夫会長(71)、5月中間期決算発表の記者会見で次のように話したというんですな。(北國新聞7月12日付記事から)

「富山で生まれて地方の大学に行ったとしても、私は極力採らないです」
「閉鎖的な考え方が強いから」
「富山で生まれて富山の幼稚園、小学校、中学校、高校、不二越、これはだめです」
「地方で生まれて、地方の大学もしくは富山大学に来た人は採ります。しかし、富山に生まれて地方の大学に行った人でも極力採りません」
「ただし、ワーカーは富山から採ります」。

▼5段活用みたいな人事採用方針から分かるのは、これは“うっかり失言”の類ではないということ。おそらく自身の企業人生から感得したとんでもない確信と偏見に基づく攻撃、侮辱、愚弄、名誉毀損の類であるということ。
 では、会長はどこの人? 東京都出身と知り、あぁなるほど、ふるさと意識が希薄なのも道理と納得。誇るべきふるさとの無い故に、他のふるさとを侮辱して何ら恥じるところがないのだ、これまた道理である。

 ▼「閉鎖的」だという偏見に、富山県生まれとして少しく反論を試みる。先人に学ぶー。
 安田財閥を形成し東大安田講堂を寄付した安田善次郎。力士から転じて日本の鉄鋼王となりホテルニューオータニを創設した大谷米太郎、YKKという世界企業を築いた吉田忠雄、メディアミックス角川書店の祖角川源義浅野セメント浅野財閥浅野総一郎、さらには井波瑞泉寺造築から社寺建築のパイオニアとなった松井建設、清水建設といった富山県人の手になる企業も……。
 「富山生まれ」の先人たちが、立山連峰彼方の地、東京で創業し近代日本のインフラ整備に稀有な足跡を残しているのである。百歩譲っても、「閉鎖的」ではとうてい成し得ない事業ばかりである。
 
 加えて、たとえば名も無き「売薬さん」「薬売りさん」たちの歴史。「先用後利」というビジネスモデルを掲げ、数多の今で言う家庭薬配置員が全国津々浦々に顧客を開拓し、訪ね歩いた足跡がある。これまた然り、閉鎖的では成し得ない事業である。

「仰剱立志」という墨痕鮮やかな揮毫に出合ったことがある。「峻険剱岳を仰ぎ、大きな志を立てる」。なるほど「富山生まれ」の先人たちが連峰の山向こうに思いを馳せ、志を抱いて山向こうへと旅立ったのも分かるような気がする。ひょっとして立山連峰の姿が、見果てぬ山向こうを志向する「後天的な遺伝子」を県民の胸の内に醸成しているのかもしれない。
 であれば、富山出自の企業のトップであれば、富山生まれの内に潜む「後天的遺伝子」を励起し 発揚させるのが、人を採用し育てる側の務めではなかろうか。
 
●不穏当な発言は、創業の理念をも愚弄したと思われる。
社名不二越=不二+越」であろう。仏教の不二(ふに)、即ち二つと立たず一つに帰するーとは別に、ここは素直に不二〈ふじ〉=二つとない、比肩するもののないことと解釈する。富士山を不二山とも書くように。越は言わずもがな越中である。
 つまり越の国に発してわが国不二の企業を志向するーという気高い理念が読みとれるのである。社名も、失礼な発言を憤っているのではないか。

●富山・東京から東京へ本社一本化計画の発表の中で飛び出した「富山県民性」を攻撃する発言。自社「不二越」の沿革、富山の地勢と歴史について余りに蒙昧だったと非難されてもやむを得まい。会社の依拠する「地元」へのリスペクトが全く欠落していたと指摘されてもやむを得まい。

 結果的に、従業員、OB、若者も含め県民一般を傷つけた。翻って、創業の理念までも、である。
 再びの富山県民性の励起、発揚をと願う。
(了)